カンパ―ニア州産水牛モッツァレッラ:その歴史と栄養学的特性

ピッツァと言えば、必然的にナポリ、そしてカンパ―ニア州が思い浮かぶ。しかし、カンパ―ニア州の大地は、これ以外にも官能的・栄養学的に優れた、数多くの産物をはらんでいる。

これに関しては、カイアッツォのオリーヴやトマト等、すでに言及したものもあるが、正にこの州を特徴づけ、その名称にこの州名を冠すが、近隣の州 ― ラツィオ州南部からプーリア州北部、果てはモリーセ州に至る¹ ― でも生産されている、ある食品が存在する。

そう、押しも押されもせぬモッツァレッラの女王、カンパ―ニア州産水牛モッツァレッラである。

「カンパ―ニア州産水牛」こそが、この芸術作品の特徴である。DOP(保護原産地呼称)指定の規制、そしてその歴史と名称を保護する組合の規約が定めているように、この言い回しを背負った製品と、「モッツァレッラ・ディ・ブーファラ(水牛モッツァレッラ)」あるいは「モッツァレッラ・コン・ラッテ・ディ・ブーファラ(水牛の乳入りのモッツァレッラ)」と表記された製品の間には、一線が画されてる²。

カンパ―ニア州産水牛モッツァレッラ

まず第一に、この製品は、水牛の全乳のみを用いてつくられることが大前提となる。他のタイプの乳は、たとえほんのわずかであったとしても、一切その使用は認められない。かつ、水牛の飼育に関する証明書を持つ養牛施設産のものであることが必須となる。つまり、チーズ製造所と同様、養牛場は、指定された地域内にあり、「地中海イタリア水牛Bubalus bubalis」種に属する水牛を飼育し、規定に則した養牛/生産ラインを有しているという、DOP証明を取得するための厳格な規定を満たさねばならない。

この地中海イタリア水牛だが、現時点ではまだ科学的・動物学的討論の段階にあり、その起源は定かでない。伝承では、アジアからやって来て、アラブ人の手でシチリアを経てこの地に到着したことになっている。一方、現在も進行中の科学的研究は、ランゴバルト族が導入したものの末裔、あるいは、さらにこれより前、ギリシャ・ローマ時代のイタリアで、すでにこの動物の飼育がおこなわれていたとしている。とにかく、他種との隔絶と交配の不在により、特に形態学的な面で、独自の明確な特徴を磨き上げた動物であることは、間違いない³。

粗放式の放牧は、現在では集約的なものともなっている。ただし水牛には、牧草を食んで歩くスペースが与えられている。水牛の飼料は、官能的な特徴のみならず、何よりも栄養学的に一定の特徴を備えたミルクの生産を水牛に可能とするもので、全組合メンバーの養牛所で一致した、厳格なものであることが不可欠となる。水牛のミルクは、タンパク質と脂肪分が豊かで、さらにカルシウムとビタミンB群の濃度が高い⁴。このような栄養的特徴は、我々になじみ深い典型的な食品であるモッツァレッラを製造するための、特殊な加工を可能としている。

詳細は省くが、加工のフェーズは明確かつ詳細に規定されており、チーズ製造所は、これに正確に従わねばならない。その遵守に対する点検は、頻繁かつ厳粛に行われている。酸性化 ― ミルクにホエーを加える ― 、凝固 ― 大きな窯で行われる ― 、スピーノ(註:とげ)と呼ばれる特殊な道具でカードを細かく崩し、その後固体から液体を分離し(シネレシス)、フィラトゥーラ(註:カードを練り伸ばし、繊維状にすること)を経て、お馴染みの形に成形/カットして完成、となる。

先に述べたように、この手の加工、この動物の飼料、そしてこの水牛の種そのものが相まって、特に脂質に、興味深い特徴をもたらしている。モッツァレッラのカロリー含有度は100gあたり280カロリーと中程度で、タンパク質の割合が17%(ホワイト・ミートとほぼ同量)、脂質のそれが25%となる。

地中海イタリア水牛

ただしこの脂質は、全てが「悪玉」ではなく、我々の健康にプラスとなる飽和脂肪酸と多価不飽和脂肪酸が含まれている。例えば、飽和脂肪酸としては、ステアリン酸が存在している。この酸は、我々の予想に反して、コレステロール降下(コレステロール値を下げる)作用を有する⁵。また、腸の健康を司る存在である酪酸も、鎮座している。

「善玉」とされる多価不飽和脂肪酸としては、リノール酸が存在する。これは、細胞の成長促進、炎症反応の鎮静化(一般的な炎症値を下げる)、コレステロール値の正常化、さらに、特に魚が含有する、オメガ3の中でも有名な DHA(ドコサヘキサエン酸)とEPA(エイコサペンタエン酸)と近い効果を発揮するなど、健康にプラスとなる一連の特徴を備えた酸である。

上記のような栄養学的性質により、カンパ―ニア州産水牛モッツァレッラは、地中海式ダイエットを特徴づける、(奨励される)週に一度、あるいは日常的に摂取されるべき食品の一つとされている。この食品の摂取が、胃腸に問題がある人の助けとなり得ることを証明する、100%イタリア産の研究成果⁷も興味深い。

乳糖含有量が大変低い(0.3~0.5g)ことが証明された結果、この逸品は、乳糖に敏感な人を含め、ほとんどの人にとって消化しやすいという結論が成り立つ。ナポリ大学薬学部のジャンカルロ・テノーレ博士は、エットレ・ノヴェッリーノ博士と共に、DOPカンパ―ニア州産水牛モッツァレッラは、胃腸での消化後、タンパク質片がペプチドに矮小化されると、腸細胞を強力に保護する効果を発揮できると発表した。このペプチドは、老衰・疾患した細胞の、若く健康な細胞への交換を促進し、その結果腸の粘膜の再生および保護作用を可能とする、とのことである。

同研究によると、このペプチドは、腸の様々な炎症用とされる一般的な薬よりも有効で、かつ、この手の薬につきものの副作用をもたらさない。

2015年に発表されたこの研究では、唾液、胃、十二指腸細胞を対象に試験管内で行われた様々な実験を介し、我々らがモッツァレッラが含有するタンパク質の微小な欠片、MBCP(カンパ―ニア州産水牛モッツァレッラペプチドMozzarella Bufala Campana Peptides)が持つ、抗酸化作用が算出された。

DOP水牛飼育地区

カンパ―ニア州産水牛モッツァレッラは、個性的な食品であり、イタリアのDOPの花形である。しかし、その模造品は多数存在し、また様々な批判も受けている。かの有名な、ダイオキシン絡みの問題が提起された際、この食品に否定的な意見が寄せられる一方で、環境汚染及び製造前後の管理体制に対する関心が高まった。その結果現在では、これらの点では、消費者にとって超安全な製品が、スーパーや各家庭の食卓に届けられている。

模造品を本物として売っている店、類似性に付け込んでずるい行為をしている店を見極めることは、必要である。

先述の通り、この製品は、特定の方法・限定された地域で製造され、「カンパ―ニア州産水牛モッツァレッラ」と表記され、DOPとその保護組合のエリア/所在地、製造所の公認番号、 法的基準(D.P.C.M. 10/5/93 および Reg. CE n.1107/96)を掲載し、視覚と触覚で認められる独特の特徴を備え、パッケージに結び目がある場合は、生産者が保証の封を付けることが義務づけられている。カンパ―ニア州産水牛モッツァレッラのパッケージを開けると、その保存液に浸かり、表皮約1㎜、成形のためにちぎった部分以外はなめらかで、光沢のある/真珠のような白色(燻製をかけたもの以外)、やわらかくかつ弾力のある歯ごたえ、酸味のある味わいで、アーモンドの香りをまとった逸品が佇んでいる。

この地ならではの、高品質で、健康にも良い、唯一無二の逸品。私としては、ほぼ全ての人にお勧めである。

我らが地元が備えた多数の産物の一つで、ピッツァとの相性も完璧な、カンパ―ニア州産水牛モッツァレッラ。

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