カンパ―ニア州において、ピッツァのテイクアウトは禁じられている。この州が、ロックダウン直後からこの処置をとった唯一の存在であることは、特筆に値しよう。正確に言えば、テイクアウト禁止の対象となっているのは、ピッツァだけではない。ATECOコード(註:欧州共同体経済活動統計分類NACE CODEに沿ったイタリアのコード)番号で規定された生鮮および調理済み食品カテゴリーのうち、ピッツェリアやトラットリアを含む一部に対し、この州はテイクアウト・デリバリーの禁止を命じ、今日に至っている。これ以外の食品製造業、例えば製菓業者によるパック入りの菓子等は、通常通りの生産・販売が認められている。
デリバリーそのものが、飲食業全般にのしかかっているこの危機的状態の解決策にはなり得ないことは、明らかである。各店が抱えていた配達員を使おうと、デリバリー専門業者が配達員を派遣するシステムを使おうと、その事実は変わらない。しかし、カンパ―ニア州の飲食店関係者が、他の州の同業者と肩を並べ、彼らと同じ可能性を持つことは、間違ってるだろうか?
カンパ―ニア州政府によるこの禁止令の決断理由は、定かではない。その一方で、レストラン経営者やピッツァイオーロの側から、その一切の作業に関わる人々全員にとって、想像しうる限り安全な再開を「試し」てみるための、具体的で、実現可能な提案する時に来てるのではないだろうか。我々は、この業界に、コロナウイルスに対して求められる安全対策に対し、十二分に対応できるプロたちが大勢存在することを確信している。また、別の視点から見れば、きちんとした対価を求められる、誰にとっても安全なデリバリーが存在し得ることを世に知らしめる、絶好の機会かもしれない。
先にも述べたように、これで問題が解決するわけではない。しかし、デリバリーは、イタリアの他の州と並び、カンパーニア州の業界関係者が再出発を試みるための、現時点における可能性の一つであることは間違いない。見解に差があっても、当事者である彼らが意見を表明することを可能とし、これについて話し合うことは重要である。皆の意見に耳を傾けて初めて、具体的な提案が誕生しよう。
この状況に、真っ先に警告を発した関係者の一人は、50 Calòのチロ・サルヴォである。FBに長文のポストを寄せた彼は、同業者たちに、具体的な提案の起草を目指した「グループの形成」を呼びかけた。これに対する反応は早く、ジーノ・ソルビッロがメディアを介して直ちに賛同を表明した他、サルヴァトーレ・サントゥッチ、エンツォ・コッチャ他、カンパ―ニア州を代表するスター・ピッツァイオーロ達がこれに続いた。また、ナポリの老舗Trattoria Umbertoのオーナーであるマッシモ・ポルツィオは、提案をまとめるベースとして、Confcommercio(イタリア労働総同盟の商業・観光・サービス業部門)とFIPE(イタリア公共店舗連合。公共店舗とは、喫茶店、レストラン、ホテル等を指す)と協力し、署名活動を開始。この運動のメッセージ#iovoglioriaprire (私は再開したい)は、SNS上で多数展開された。
ジーノ・ソルビッロは、全国ネットのイタリアのテレビ局La7によるインタビューで、再開した場合の在り方を以下のように端的に明示した。「作業台に立つのは、(ピッツェリアでは前々から行われていたことではあるが)ピッツァを作るピッツァイオーロと窯を担当するフォルナイオの2人とすることで、ソーシャルディスタンスを確保する。トッピングの際に触れる具材の数を抑えるため、メニューは2種に限定。デリバリーは、専門業者のプラットフォーム・システムを介したものに統一し、あらゆる接触と移動を監視下に置く」
ピッツァのデリバリーの是非に関する意見は多種多様で、一致を見ない。そのため、大規模ピッツェリアと、ナポリ市内の小規模ピッツェリア、さらにカンパーニア州内ナポリ市外の小規模ピッツェリア経営者という、立場を違える関係者から、各々の意見を求めた。
Michele in the WorldとナポリのAntica Pizzeria da Micheleのオーナーであるアレッサンドロ・コンドゥッロは、ピッツァイオーロではないが、ピッツァ業界では知らぬ者のいない、著名な経営者である。彼の意見は、次のように明快である。「一日1200枚提供していたピッツァを、デリバリーが解決することはあり得ません。しかし、デリバリーが持つ、心理的な役割は重要です。我がローマ・フラミニオ店のピッツァイオーロは、今は一日200枚のデリバリーに幸せを噛みしめています。儲けは経費ととんとん、足が出ることもあります。しかし、この未知の局面に誰もが適応しなければならないことは必至な訳ですから、腹を決めて早急に着手するに越したことはありません。当然、カンパ―ニア州も、その例外ではありません。特に、デリバリーやテイクアウトを命綱とする家族経営レベルの小さな店のことを考えると、結論は明らかでしょう」
一方、Pizzeria Francesco e Salvatore Salvoのフランチェスコ・サルヴォは、デリバリーの是非についてはニュートラルな立場を崩さない。「我々の店でデリバリーが占める割合は、本当に微々たるものでした。もともと原価率が高いところに、20~30%にもおよぶデリバリー業者の取り分を加えるとなると、儲けがほとんど出ませんし、ナポリ中のピッツェリアがデリバリーで再開となれば、なおさら、経営面から見て了解できるだけの数量を達成することは難しいと思います。もちろん、私の予想が間違っているかもしれませんが。。。もしもデリバリーが承認されれば、早急に店に入り、対応する用意はあります。デリバリーの是非は、少なくとも現時点では、我々のようなタイプより、ごく小規模の店にとってより重要な問題だと思います」
デリバリーが、何百とひしめく小規模のピッツェリアを救済し得るという点では、意見の一致が見られた。Pizzeria Ciro Pellone alla Loggettaを率いるマルコ・ペッローネの見解も、その傾向を裏付ける。「うちの店の場合、無期限閉鎖が発令される直前の週末の時点で、注文はほぼ100%デリバリーに切り替わっていました。ホールのお客さんはたった6人で、一晩ひたすらデリバリーに駆けずり回りましたが、ものすごい量でしたよ。我々は地域に根差した小さなピッツェリアですから、もともとテイクアウト/デリバリーの比重が高く、特に週の始めは、その傾向が強いのが普通でした。デリバリーによる再開は、我々にとっては抜本的な起爆剤となり得ます。安全に関する規則を厳守することは絶対ですが、元々うちの店では以前からしていたことだということは、一言言わせてください。閉鎖令の前から、うちの配達員は業務に関したプロテクターはフル装備で、殺菌剤も携帯。お届けの際も、接触無しのシステムをとっていました。将来ですか?売り上げの平均は下がると思いますね。他人と接近した場所にいることをまず避けるようになるでしょうし、何よりも、お金の使い道を吟味するようになるでしょうから」
ナポリ市外でも、現状を鋭く分析している人々がいる。ナポリ県下のポッジョマリーノで、ピッツェリア・トラットリアNanninellaを営むラッファエレ・ボッチャも、その一人である。オーナー兼ピッツァイオーロの彼のピッツァと料理は良く知られ、地元に深く根付いている。「デリバリーによる再開案に、楽観的な見方はしていません。例えば、現在うちの従業員たちは特別失業手当、つまり、全員が通常給与の80%を受給しています。いざ再開となった場合、デリバリーの数が従業員の給与をカバーできるとは思えません。デリバリーも禁止となる直前の2日間、デリバリー限定で営業しましたが、それはもう大変な思いをして体制を整えたものの、実際に入った注文はほんの僅かでした。閉鎖令が解除され、店の再開が可能となった時には、一回転60席の予約システムを導入しようと考えています。デリバリー問題は、最初にそれが浮上した時点で、より的確に対応されるべきだった。その一言に尽きます」