ピッツァは肥満につながる?

ピッツァを食することは、喜びである。正確を期せば、体内に食品を取り込むことで、快感、満足感、幸福感が得られるという現象は、頻繁に起こる。

テーブルに着く、またはメニューを眺めるだけで(1)、分泌腺とホルモンが、活動をスタートする1。

ピッツェリアでの自分を、エントランスから脳内再生してみよう。鼻孔を満たす香り、先にオーダーした同席者の前で湯気をあげているピッツァ、遠くで休みなく生地を延ばしているピッツァイオーロ。メニューの決定、待ち時間、テーブルに到着したピッツァ...

これらの出来事が起こっている間、人体は、これから摂取される全てを嚥下し、消化する準備を開始する。これは、この経験を最大限に心地良いものとすることで、将来的に同じ行動を繰り返すことを可能としようとする反応である。

それは一体、なぜ起こるのだろう。人体は、完璧でも正確でもないが、実に抜け目がない。我々はこれを持続する養分 -空気、食物、水― を求め続けるようにできている。
とはいえ、食品の摂取を過度に継続し続けると、問題が生じる。食べ過ぎたり、エネルギーの消費不足で太るのは、誰にでもよくあることである。しかし、これが長期化すると、健康に重大な影を落とす(2)。

なぜ」を突き止められずにはいられない科学者魂が、この現象を見逃すはずはない。フィンランドのTurku PET Centreは、脳、食品、満腹感と快楽が持つ関係性の解明を目指し、次のような実験を行っている(3)。
まず、被験者として、平均体重で体脂肪率約17%、平均年齢22.5歳の男性10名が選ばれた。

彼らには、12時間の断食の後と、ピッツァ一枚とほぼ同量の炭水化物、タンパク質、脂質を含む無味の流動食(飲料)を飲んだ後、さらに3つのメニューから選んだピッツァとコカコーラ・ゼロを摂取した後の計3回、PET(ポジトロン断層法)による脳検査を行った。

また、トモグラフィー検査の他、幸福度、焦燥感、易怒性、吐き気、満腹度、空腹度、口渇度に関する質問票への回答が求められた。さらに、食後の体内のホルモン濃度測定のため、血漿抽出も行われた。

結果とその詳細.

何かを口にするたびに、人体はエンドルフィンを分泌し、オピオイド受容体を活性化する。これは、ドラッグを摂取した場合と何ら変わりない。
ピッツァにかぶりついた時に突き抜ける、あの絶対的な快感をご存知の皆さんは、「わざわざ科学者の手を借りなくても、分かり切っていたこと」とおっしゃるかもしれない。

ごもっとも。しかし、である。

内因性オピオイドの受容体と結合する物質の分泌が最多となるのは、なんと、無味の飲料が体内に取り込まれた際なのである。我々の体は、生物学的には、ピッツァより液体混合物を好むのである。

実験結果の分析は、脳内の関連部位の活性化以外にも、複数の観点から行われてた。
その結果、ピッツァを食べた時の方が、流動食を飲んだ時よりも、満腹度が高いことが判明した。幸福感においても、ピッツァが圧倒している。一方、インシュリン(ホルモンの一つで、過多になると、摂食障害と関連した様々な症状に関与する)の分泌は、液状の流動食摂取後が最多を記録している。

このうち、オピオイド受容体の活性化と快感 - ピッツァ摂取後が最多 - に注目してみよう。無味の液体を摂取した後に脳が最も活性化し、さらに欲するような反応を示すことは、腑に落ちない。
これはつまり、オピオイドの分泌が快感に繋がることは確かだが、そのレベルは、これを制御するホルモンの濃度とは比例しないことを意味する。まさに科学の神秘、である。

つまり、「肥満の元凶はホルモンの機能不全にあり」という一連の研究成果は、全て間違っていたのだろうか?
答えは、NOである。科学と生物学は、未だに我々の想像をはるかに超えて複雑な領域である。先に挙げたような研究は、薬品を用い、試験管内で(細胞に対し)行われた実験結果のみを対象としている(4)。生物体がその完成度に準じ、生物学的にある一定の法則性をもった反応を見せること、またこれを形成し機能させるシステムは多数存在し、かつ互いに絡み合っていることは事実である。しかし、それを踏まえた上で、もっぱら生身の患者に焦点を当てるのが、現在の研究の傾向となっている。

快楽―報酬の概念では、特殊な生理病理学の状況を説明しきれないことがままある。肥満になったのは「ピッツァ(またはその患者特有の食品)が快感を誘引するから」というのは間違い、または不完全である。
無味の飲料がピッツァと同じ結果、むしろ一層のホルモン分泌を引き起こすという結果を、先に述べた。被験者たちは、この飲料よりも、間違いなくピッツァのおかわりを望んだであろうにもかかわらず、である。

個人的には、この現象に携わる医療の専門家 たちは、もしも本当に人々の健康を思うなら、あの一見厚顔ともとれる態度を改めるべきだと確信してる。生物学、内分泌学、生化学は、科学であり、一定の法則性を持つ。しかし、良く言われるように、我々は機械でも、数値でもない。我々は、複雑な主体にして客体であり、学術的な詳細な分類に当てはまるとは限らない。ある秩序の乱れは、しばしばより内面的な別の乱れとリンクしているものである。

ピッツァは快感の引き金となる?  :絶対的にYes。これは、他の食品でも起こる現象である。
ピッツァが好物だから、太る?   :「好きだからむやみに食べる」のであれば、Yes。度を越した摂取をすれば、どんな食品でも太る。
私が太っているのは、ホルモンのせい? :Yes and No。摂食障害は、ホルモンと心理学という2つの観点からの解明が必須である。

ピッツァさえ食べなければ、痩せる?  :そうとは限らない。ピッツァは、人気が高いメニューである。もしも好きなら、食べて結構。本当に大切なのは、時には専門家の助けも借りて、自分と食品全般との関係を、冷静かつ客観的に管理することである。


  1. Berridge KC, Ho CY, Richard JM, DiFeliceantonio AG (2010), The tempted brain eats: pleasure and desire circuits in obesity and eating disorders.Brain Res 
  2. Berridge KC (2009), ”Liking” and “wanting” food rewards: brain substrates and roles in eating disorders. Physiol Behav 
  3. Jetro J. Tuulari et al. (2017), Feeding Releases Endogenous Opioids in Humans. The Journal of Neuroscience 
  4. Burghardt PR, Rothberg AE, Dykhuis KE, Burant CF, Zubieta JK (2015), Endogenous opioid mechanisms are implicated in obesity and weight loss in humans. J Clin Endocrinol Metab 
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