トマト:シンプルにして栄養満載の食材

ピッツァを特徴づけている食材とは、何だろう? モッツァレッラ、EVO、バジル、アンチョビ、フリアリエッリ、ツナ、果てはウインナー ― 好み、そして出身地域によって、様々な答えが並ぶだろう。ただし、ピッツァ、そして全イタリア料理を特徴づけている食材の存在を忘れるわけには行かない。

トマト

ピッツァ界におけるトマトは、様々な形で、ほぼ全域にその存在を示していると言える。トマトソースをベースとしないビアンカ(註:白い)ピッツァの中には、これを含まないものもあるが、我々が愛してやまないピッツァは、私の頭の中では常にトマト(もしくはその二次製品)をまとっている。トマトは、地中海式ダイエットの基本を成す食材である。ただし、地中海的な性格はほぼ無に等しい。

1500年前後にヨーロッパに到着したトマトは、その後ナポリ、ジェノヴァ、フランスを経て、旧大陸のテーブルを席巻した。形や色には様々なバリエーションがあるが、栄養価においては一定で、ビタミンと抗酸化物質に富んだ野菜、食材である。

ビタミンとしては、まずは免疫性を強化することで有名な、最近つとに脚光を浴びているビタミンC¹。続いて、遊離基に対抗するのみならず、目、皮膚、粘膜、関節に関する健康の助太刀を務めてくれるビタミンAに体内で変身する抗酸化物質、ベータカロテン²。そして、骨組織の健康と抗炎症反応の調整の主役を務める、ビタミンKが挙げられる。

ただし、この食材を特徴づける微量栄養素の中で最も重要な存在は、リコピン³である。世界中が研究に取り組んでいるその成分は、カロテノイド群に属する強力な抗酸化物質である。詳細は省くが、トマトをちょうどEVOのような脂質の豊富な食品と併せると、人体で容易に代謝化される。リコピンが及ぼす様々な作用には、人体の脂質制御を助け、善玉コレステロールの濃度を高め、トリアシルグリセロールの量を制御し、心臓脈管系の発病を抑えることが挙げられる。

また、太陽の紫外線からの保護作用を持つため、肌の健康にプラスに働く。この特殊な成分からは、パーキンソン病、アルツハイマー病のような神経変性疾患の発病を抑える恩恵が得られることが、最近の研究で明らかになっている。

ただし、本稿で私が注目したいのは、様々な腫瘍の予防と治療における、何よりもリコピン、続いてトマトの能力である。リコピン(トマトでは無く、この成分に限定したもの)と、これが有する乳房や前立腺といった癌腫の予防的役割に関しては、多数の研究が重ねられている。その結果医学界では、症例によっては、この抗酸化物質のサプリメントがすでに何年も前から推奨されている。

幸運にも、我らがイタリアは、トマトの中でも2種 ― ピッツァ・パスカリーナに言及した際に触れた、コルバーラ(またはコルバリーノ)とサンマルツァーノ ― に着目した研究者を擁している。

コルバーラ

「コルバリーノ」は、サレルノ県の郊外のような、ミネラル分の豊富な火山地質を擁する、カンパーニア州内の限定された地域にのみ生育するトマトである。特徴的な「洋ナシ」型で、栽培地と海風の影響で、風味に軽い塩気を含む。

サンマルツァーノ

サンマルツァーノ種は、前者同様サレルノ県、正確にはサルネーゼ・ノチェリーノ平野に発する。細長く、赤く、酸味と甘みを併せ持つ。これがイタリアへ到着するのは、基本的なトマトより遅れた1770年前後のことで、ナポリ王国への贈り物としてペルー王国から直々に届けられたという歴史を持つ。アントニオ・ジョルダーノ博士率いる先述の病理・腫瘍・遺伝学者の研究者たちは、リコピン、トマトに関する研究と、癌治療との相関関係⁴の追求を進めた。

その際、各成分にとどまらず、トマト全体がもたらす効果の分析に目を向けたことは、正に鋭い勘、先見の明そのものである。在ナポリ国立腫瘍研究所のダニエラ・バローネ、レティツィア・チート、在ポッツォーリイタリア学術会議のバルバラ・ニコラウス、ロッコ・デプリスコの各研究者と共に進められたこの研究は、(コルバーラとサンマルツァーノ)トマトのエキスの活用に注目し、胃癌のいくつかの細胞形状の様々な腫瘍の特性に与える影響について分析したものだった。

その結果、両トマトのエキスともに、検査した悪性細胞の成長を抑制することが出来ることが判明した。さらに、あらゆるトマトのエキスを用いた治療は、キー的存在である細胞プロセスに影響を及ぼすことも浮き彫りとなった。癌性細胞の移動能力(つまり転移の展開の可能性)と細胞周期をブロックし、アポトーシスを誘導し、がん細胞を死に導いたのである。

Prof. Antonio Giordano

固体全体を対象として踏まえた、トマトの抗酸化性に関しては、この食材のうち特定の種類は、各ステージの胃癌において、悪性細胞の発育に様々な影響を与える可能性も示唆した。Journal of Cellular Physiology(註:細胞生理学誌)に発表されたこの研究は、ズバッロ保健研究機構のプログラムの1つで、シエナ大学医学・外科・神経科学学科、在ナポリ国立腫瘍研究所パスカーレ、メルコリアーノ癌研究センター(在アヴェッリーノ県)との10年にわたる共同研究によって実現した。

同研究は、先述の通り、培養細胞に対して行われたが、単独の微量栄養素では無く、初めてトマトのエキスから得られたこの研究結果である。予防的な作用の兆候が認められる一方、癌患者の闘病を支える治療的な面でも、その効果を見込むことは出来る。

我々の食事の一環であり、入手が容易で、比較的安く、優れた特性に満ちていることが昨今の数多の研究で証明されているトマトは、完璧な野菜、いわば我らがキッチンの「赤い金」であるという確信は、深まる一方だ。

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