NAPD(ナップディ): 熊倉“ディコプリオ”光氏がつくる、東京のピッツァ・フリッタ

日本でも稀有のピッツェリアへと昇華した、ナポリとマラドーナへの愛

Pizza Review by Antonio Fucito — 4週間 前

日本でまだあまり知られていないピッツァといえば、ピッツァ・フリッタ(揚げピザ)が挙げられる。バッティロッキョ(ピッツァ生地1枚を半分に折って使用)、コンプレータ(同2枚を折らずに使用。リコッタ、豚のくず肉、プロヴォラ、トマトピューレ、胡椒を挟む)、モンタナ―ラ(円形の生地を揚げ、その上にトッピング)、グラッファ(揚げドーナツ)...フリッタティーナ(パスタとベシャメルソースその他のコロッケ)、クロッケ(ジャガイモその他のコロッケ)等々、サポーターにも事欠かない。

揚げものが汎用されているこの国 ― 天ぷら、とんかつその他を思い浮かべていただきたい ― にあって、ピッツァ・フリッタを提供するピッツェリアがわずかしか存在しないのは、不思議な話だ。揚げものとのなじみから、日本人の口に合う/合わないの問題とは考えにくい。ピッツァ・フリッタの姿をさほど見かけない原因は、窯焼きピッツァ用とは異なる機材が別途必要となること、これが調理スペースにうまく収まるとは限らないこと、さらに、ピッツァ・フリッタをつくるピッツァイオーロ育成の必然性に帰すと考えるのが、妥当であろう。

熊倉“ディコプリオ”光氏率いるこのNAPDは、まさにピッツァ・フリッタをメインに打ち出した、数少ないピッツェリアのひとつである。そのため、ピッツァ・フリッタのファン、あるいはこれに郷愁を覚える人々、さらには、是非とも食べてみたいと言う好奇心旺盛な人々の間で、ここが東京でマストな一軒となっている。
在日イタリア大使館や在日イタリア商工会議所も擁する港区に位置したこの店は、サッカークラブ・ナポリのシンボルカラーであるブルーが、全14席のうち1つを含め、店の隅々まで埋め尽くしている。

日本人のディコプリオ ― 友人たちがつけた、アナグラムのニックネーム。アナグラムのもとになった言葉は、皆さん各自であてるように — 氏の生き様も、やはりブルーに染まっている。すべては、彼が1980年代にナポリを訪ね、マラドーナに恋したことに始まった。彼やスタッフのイタリア語はなかなかのもの。YouTubeやインスタグラムに、前述のクラブの試合に関連したコンテンツを投稿を始めると、彼は同クラブのファンの間でかなり知られるようになったため、店内はマラドーナだらけ。その御姿は、この店のサポートグッズにも拝むことが出来る。

ピッツァに話を戻そう。メニューは、日本の伝統を踏襲し、ナポリ料理へのオマージュを込めた前菜数品とプリモ・ピアットから、モンタナーラ、ゼッポリーネ、フリッタティーナ、そしてフランコ・ペペ氏に捧げられたものと他3種のピッツァ・フリッタを経て、ヌテッラのグラッファで締めくくられる。

店内は、日本的解釈を加味したナポリ、という居心地。「ナポリと言えば」的な、いかにもベタなステレオタイプも散見される。とはいえ、皿に鎮座する一品は、その味わい、そして実にカラッとした揚がり具合からも、まさにピッツァ・フリッタの名にふさわしい。パリッとした食感に不足はない。生地は、ナポリのトップクラスのそれと比べると腰が強く、妖艶さには欠けるものの、十分合格。和牛を使ったフリッタティーナは味わい深く、具はみっちり詰まっていて、硬め。 締めは、グラッファとヌテッラ。間違いのない必勝コンボではあるが、その完成度は決して侮れない。

ディコプリオ氏がピッツアづくりをYouTubeで学び、その後ナポリで多くのピッツァを食べ歩いたという経歴を考えると、その結実は特筆に値しよう。ロケーションは素晴らしいが、顧客が夏に限定される沖縄でのテストを経た今、NAPDはピッツァ・フリッタを試したい、あるいはそれ無しではいられないすべての人々の、東京における一縷の「光」となるかもしれない。