ピッツァ&ワイン そのペアリングが可能な理由
Column by Manuela Chiarolanza — 5年 前
ピッツァやフォカッチャ的な食品は、様々な形やサイズで、大昔から存在してきた。これが時代とともに進化する中で、「ピッツァ」という名を確立し、定着している。水と豆の粉によるベースに、地の滋味深い味わいをまとった香料が添えられたフォカッチャは、その誕生直後から、主要かつ最も安価な庶民の栄養源としての役割を務めた。
エジプト人がイーストを発見すると、丸い形がとられるようになり、石の上で焼いた円形の平べったいパンというカテゴリーが現れた。
16世紀以降、フォカッチャは、現在我々になじみのある形に徐々に近づきはじめる。アメリカ大陸が発見され、彼の地からもたらされた新たな食材(トウモロコシ、豆類、トマトなど)が、料理の可能性を一気に拡大した。チーズ他様々な食品が、活躍の場を開拓し、さらに、味覚の向上を目して、オリーブオイルが導入された。今日我々が認識しているようなピッツァの最古のレシピは、1858年にナポリで出版された、学術書に掲載されている。ここに、当時「真のナポリピッツァ」が、どのように作られていたかを知ることができる。ナポリがまだ両シチリア王国の首都だった当時、フランチェスコ・ドゥ・ブカFrancesco De Bourcardは、その著書「記述・挿絵付き ナポリとその近郊における習慣と風習Usi e costumi di Napoli e contorni descritti e dipinti」の中で、モッツァレッラとバジリコを使った一種の「マルゲリータ」ピッツァについても言及している。当時トマトは、まだオプションの一つに過ぎなかった。なお、トッピングに関しては「思い浮かんだもの」を使ってよい、とある。ここに、新しいレシピ開発に向けた、ピッツァの実習が開始した。
数々のトライ&エラーの中から誕生し、世界的に最も有名になったそのメニューといえば、やはりマルゲリータである。この出世頭は、19世紀末に活躍したピッツァイオーロであるラッファエレ・エスポジトの手によって、偶然生み出された。時のイタリア王ウンベルト一世とその王妃マルゲリータがナポリを訪問した際、この地の自慢の料理の中でも、代表的な2つのメニュー - マリナーラと、トマト・モッツァレッラ・バジリコのピッツァ - が献上された。言い伝えでは、このうち後者をいたく気に入られた王妃が、自らピッツァイオーロをねぎらわれ、これに感銘を受けた彼は、このレシピに王妃の名を冠したとされる。ナポリのシンボルとなったこのメニューが、当時イタリアの食卓で最もポピュラーな飲み物であったワインと組み合わされるに至ったのは、至極当然のことであった。しかし、ピッツェリアにはアルコール飲料取扱販売権の取得が認められていなかった。その結果、ピッツェリア周辺に、現在のエノテカに当たる小さなワイン小売店兼酒場が群がりはじめ、ここからピッツェリアのテーブルに、0.5リットルのハウスワインがデリバリーされるようになった。
1950年代に入ると、度数の低いアルコール飲料(8%以下)に限定した特殊取扱販売権の取得が、商店にも認められるようになった。この解禁を受けて、ピッツェリアでビールを飲む習慣がまたたく間に広まった。そればかりか、ワインよりも安いこのドリンクは、ピッツェリアにおける注文率ナンバーワン飲料の地位に上り詰めた。ここに、ピッツァとビールのペアリングは、生活にあまり余裕がない階層を含むあらゆる人々にとって、外食の可能性を体現した存在となった。
ペアリングの原則
ピッツァは、他のあらゆる料理と同様、ワインとの組み合わせが可能なメニューである。当然ながら、コントラスト(対置)または類似(調和)を基に、食品とワインの官能性の釣り合いをとるという基本的法則は、このメニューにも当てはまる。コントラストを基調とする場合は、片方の偏りをもう一方が補い、類似を基調とする場合は、同じ特徴でバランスを保つのである。
食品とワインのペアリングは、突き詰めれば構造的バランスの探求である。強烈なボディを持ち、余韻が長いワインがあるとする。これを官能性の薄い料理と合わせた場合、ワインがこれを完全に圧倒してしまう。また、ボディが脆弱で軽すぎるようなワインは、食事全体の味覚・嗅覚的特徴に、なんら寄与できない。ここで、調和を構築するために有益な、様々な要因を把握しておこう。その理解をより深いものとするために、まずは摂食時に口の中で何が起こっているのか、また味蕾を通じ舌で何を知覚しているかを、知ることからはじめよう。
味覚とは、口の中で感じる、味に限らず嗅覚、触覚、温度的な刺激に関連した、官能性の総体を指す。味が引き金となって立ち上がる味覚は、4つの基本味(甘味、塩味、酸味、苦味)から構成される。各々の味は、甘味は舌先、苦味は舌の根、塩味と酸味は舌の脇と、舌の異なる部分が認識する。
今日ではこれに5番目の味、うま味が加わっている。グルタミン酸(パルミジャーノ・レッジャーノチーズ、生ハム、肉など、タンパク質に富んだ食品の他、多くの野菜も含有するアミノ酸)が豊富な食品を摂取した際に出会うこの味は、おいしさ、風味の良さを表す。なお、そのペアリングに関した特質は、まだ完全には解明されていない。
食品をほおばると、口の中で様々な現象(唾液分泌、収れん、触覚刺激)が起こり、対照的なものも含め様々な味を受容することが可能となる。味の認識にかかる、またこれが継続する時間には差があり、甘味は1秒以内に認知されるが、苦味はこれが3秒後となり、長く残る。
唾液と相まって構成される混合物の中には、口腔の潤滑を妨げるものがある。「収れん」と呼ばれるこの作用は、主に赤ワインが含有するタンニンが原因となる。なお、舌は、形もある程度認識でき、硬い部分があるかないか、食品が濃厚か、液状か、クリーミーかどうかも感知する。
これら全ての食感が混じり合い、相互に影響を与える。
あらゆる料理には、メインとなる特徴がある。これを特定することから、最適のワイン選びへの道が開ける。例えば、脂肪質、甘味傾向(糖が持つ甘味と混同しないこと。無味に近く、パン、チーズ、ジャガイモなどが含有する)、多汁質(牛肉をとろ火で煮込んだブラザートのような、料理自体が含むジュースと、パンやチーズなどを咀嚼する際に分泌される唾液という、複数の液体の存在がもたらす)、油っぽさ、風味の良さ(うま味)他、その枚挙にはいとまがない。イタリアソムリエ協会(Associazione Italiana Sommelier、AIS)は、ワインと料理の特徴をまとめたテクニカルシートを作成した。各特徴は数値でも表されており、ペアリングの際はその値を参考にすることで、味わいの調和が求められる。ただし、このシートは、あくまで組み合わせの選択を補助する道具であり、最終的に信じるべきものは各自の好みと、我々の口の中で起こる現象であることは、言うまでもない。
例えば、酸味と発泡性を備えた風味の良いワインには、脂肪質と甘味傾向が優勢な一品を合わせるべきである。酸味は脂気をぬぐってくれる。また、うま味を甘味傾向と対照させるのは、うま味が強いワインを、これが弱めの料理と合わせることで、食事全体にさらなるおいしさが加わるためである。
アルコールとタンニンは、脱水性を持つため、口腔から水分を除去し、食品の多汁質および(粘性とはいえ、液体であることには変わりがない)油っぽさに対置する。特にアルコールが多汁質に、タンニンが油っぽさに対抗して果たす役割は、重大である。
これに、香りの強さと、嚥下後に残って後を引く、強度な芳香の持続性(Persistenza Aromatica Intensa, 以後PAI)という、2つの重要な要素が加わる。PAIは、例えば玉ねぎのような、強力で持続力のある風味を備えた食品と調和するワインを選ぶ際に、考慮すべきものである。
ピッツァを含む現代的な料理は、発酵、熟成、材料、調理、焼成において、押しなべて軽くなる傾向にある。それに合わせ、飲みやすく、きれが良く、アルコール度が高くない、つまり重くないワイン - 食べ比べの際、新しいピッツァがサーブされるたびに、これに合わせて発泡性のものからロゼへ、白から赤へと、相性の良いワインへチェンジすることを、無理なく実現させるような - が求められている。
ピッツァ(マルゲリータやマリナーラのような、いわばシンプルなものから、原料・調理ともより複雑で、焼成にも異なる技術が要求されるものまで)は、ある程度の重みを持ち、生地および頻繁に用いられるチーズによる突出した甘味傾向を特徴とする料理であり、ここにトマトの酸味、ケッパーの芳香性、ブラックオリーブのほろ苦さ、サラミのうま味などが加わる。先に述べた原則に則ると、(ピッツァまたはアンティパストの)揚げ物には、発泡性のワインがぴったりである。スプマンテ、スパークリングワインのいずれも、油っぽさを洗い流し、圧倒的な甘味傾向を相殺する。トッピングにトマトを用いたピッツァには、ロゼ、またはグラニャーノGragnanoやランブルスコLambruscoといった赤のスパークリングワイン、あるいはピエディロッソ・デイ・カンピ・フレグレイPiedirosso dei Campi Flegreiや、ロッセ―ゼ・ディ・ドルチェアックアRossese di Dolceacqu、ピノ・ノワールPinot Noirなど、軽めの赤ワインが合う。一方、チーズをベースとするピッツァには、チーズの脂肪質を消してくれる、ファランギーナFalanghina、ヴェルディッキョVerdicchio、シャルドネChardonnayなど、酸味があってフレッシュな白ワインとのペアリングがベストである。
以上、フード&ドリンクのペアリングの際の選択方法をより良く理解するための基礎知識と、各読者の忍耐力に応じた、摂食時に口腔内で起きている現象を基にした助言をさせていただいた。
とはいえ、真実はただ一つ。個人の嗜好に勝るものはない。教科書的なガイドラインを妄信したり、何か特別なペアリング・テクニックを学ぶ必要はない。我々には、状況に応じつつ、心(いや、むしろお腹)のおもむくままに、好きなものを食べ、飲む権利がある。
では皆さん、おいしいピッツァを、心行くまで召し上がれ!