なぜピッツァは愛されるのか?その科学的解明に向けた一考察
Column by Francesco Margheriti — 5年 前
ピッツァを食べ終わるや否や、次はいつ食べようか、店は行きつけの、それともレストランランキングアプリで評価の高いあの新しいピッツェリア...と、次の「ピザ会」企画が頭の中で自動的に展開する。
世界中の大多数の人類が、最強のフードと認めるピッツァ。一体、これはなぜなのか。ピッツァを食することは、なぜこれほど快感なのだろう?
その答えは、様々である。
さっと食べられる - 時間がない時の食事として、最も健康的な選択肢の一つに、ピッツァが挙げられる。また、イタリアであれば、道を歩けば必ずピッツァに出くわす。そのため、我々の多くは、いわゆる世界スタンダードのファストフードよりも、ピッツァに足が向きがちとなる。
豊富なバリエーション - 「ピッツァ」というカテゴリーに含まれる全てには、我々が「この焼き加減じゃないと」「やっぱり仕込みはこれが最高」といった、各々のこだわりにぴったりの1枚と出会い、これを愛する自由が内包されている。この各自のこだわりが、町一番のピッツェリアはどこかという議論に拡がることは必至である。
味の多様性 - ピッツァ界の頂点に君臨するのは、その名称においても歴史においても、マルゲリータであることに異論の余地はない。その一方で、年を追うごとに様々な味や食材とのコンビネーションの可能性が広がっている。基本的に、他の素材と合わせて完成する一品料理のベースを成す食品において、このピッツァが持つ寛容な特徴は、他から一線を画す。誰もが、食べ物に関するセンスや想像力を発揮し、自分の好みで自分だけのオリジナルな1枚を生み出すことができる。
時間に縛られない - 筆者は、朝食にピッツァを食べたことがある。同様の経験をした仲間は、少なからずいるはずだ。チョコレートやクリーム入りのクロワッサンやケーキ等、スイーツ系以外の朝食メニューの中で、起きぬけの舌と胃が受け付けてくれる有難いそれの一つが、ピッツァである。朝・昼・夕食、おやつのいずれにも対応できる万能的な料理は限られているが、とりわけイタリアの食において、この特徴を持つピッツァは突出した存在である。
調理が簡単 - 各々の好みで評価が分かれる出来上がりの良し悪しはさておき、ピッツァはわずかな材料で、時間をかけず、手軽にできるメニューである。
手で食べ(られ)る - 食事の選択において、「手で食べられるかどうか」をポイントの一つとする人は、一定数存在する。ピッツァを手づかみで食べても、冷たい目で見られることはないだろう。
ずぼら - 家から一歩も出ずに宅配をオーダーしたら、何ならソファででもつまめる。皿を洗う必要も無し。
アイスでもホットでも - 熱々でサーブされるのが普通だが、常温でも、各材料の官能的特徴がさほど損なわれないままで楽しめる。
形 - ピッツァの代表的な形といえば、円形である。この形はテーブル、円卓、誰かと分かち合った瞬間を喚起する。
地域性 - 先にも述べた通り、ピッツァは世界で最もオリジナル化された料理の一つである。イタリア各地で今日提供されているピッツァの一つ一つが、なぜどのようにして誕生したかを解明しようとすれば、国中を回らねばならない。
無欠の一品料理 - 健康オタク、味にうるさいグルメ、フィットネス中毒の方々にとって、ピッツァ、特にマルゲリータは、炭水化物・タンパク質・脂質・ビタミン・ミネラル塩等、体に必要なあらゆる栄養素を取りそろえた逸材である。
野菜フレンドリー - ピッツァは、野菜との組み合わせがスムーズなメニューである。健康に良いとは知りつつ、何らかの理由で野菜を敬遠しがちな人も、ピッツァの上に載せられたそれはなぜか食べられてしまうから、不思議である。
タンパク質の宝庫 - マルゲリータ100g中には、おおよそ15gのタンパク質が含まれる。この含有率は、鶏肉のそれとほぼ等しい。
Ma che ne pensa la scienza?
さて。ここからは、生物学と栄養学の専門家として、私が最も注目している科学的側面から、ピッツァが愛される理由に迫りたい。
ピッツァは、抗酸化物質(様々な食品に含まれる微小な化学物質。他の物質の酸化及びその結果としてのフリーラジカル形成を防ぐ)に富んだ食品である。シカゴ風ディープ・ディッシュ・ピザを対象としたある研究では、このタイプのピッツァを頻繁に(週に一度)摂取する人は、これを食べない人に比べて、健康状態が良好であるという結果が出ている1。その理由としては、その焼成方法と、先に挙げた抗酸化物質を形成・放出するトマトが大量に使用されていることのどちらか、あるいは両方が挙げられよう。
トマトは、リコピン導入という大役を担っている。リコピンは黄~だいだい~赤色の野菜全てに含まれる抗酸化物質で、強力な抗ラジカルとして知られている。これを同量、トマトだけでと、ピッツァとして摂取した場合を比較すると、後者の方がその吸収率が高いことが判明した。これは、ピッツァに少量含まれる脂質が、リコピンの吸収を助けるためである。1
他にも、ピッツァを「抗癌」の旗手、正確には地中海式ダイエット食にして多様性を持った食品として、このような疾患の予防と、健康の向上に貢献できる存在とする研究が見られる2,3。このうちイタリア人による報告に関しては、別の機会に触れたい。
ところで。ピッツァを目にした瞬間、我々の腹がうずき、その高揚が舌の味蕾や唾液腺にまで到達するが、これはなぜなのだろうか。この問いにも、科学は挑戦している。(2, 3)
その答えは、ピッツァの含有物(炭水化物、脂質、タンパク質)に、そして各含有物がお互いに、または我々の体と相互にいかに作用するかという点に求められる。生地に含まれる糖と塩の混合も、その重要な要因の一つである4。これらの物質は、我々の脳内に位置する偏桃体に作用し、幸福感を喚起する。 (4)
2015年の(少々誇張が過ぎると思われる)ある報告では、このメニューの形状と材料が、我々が依存状態時に活性化する脳の一部分のそばを刺激するすることから、食物依存傾向のある人を特定するマーカーとして、一番にピッツァを挙げている5。ここに、日々私が繰り返しているモットー「何でも食べましょう。ただし、ちょっとした顧慮を忘れずに」を、声を大にして唱えさせていただく。(5)
ピッツァは、おいしい。広く愛されるこの料理は、享受されるに値して余りある。その土地土地の郷土色をまとった、世界が認めた国境のない一品であり、用語としては16世紀の昔から我々とともに今日まで歩んできたこのメニュー。実はロンゴバルド族もこれに一役買っているのだが、この話は、またいつか。
註
- Content of redox-active compounds (ie, antioxidants) in foods consumed in the United States, American Journal of Clinical Nutrition; Bente L Halvorsen, Monica H Carlsen, Katherine M Phillips, Siv K Bøhn, Kari Holte, David R Jacobs Jr; 2006 ↩
- Does pizza protect against cancer?, International Journal of Cancer, Silvano Gallus, Cristina Bosetti, Eva Negri, Renato Talamini, Maurizio Montella, Ettore Conti, Silvia Franceschi, Carlo La Vecchia, 2003 ↩
- Pizza consumption and the risk of breast, ovarian and prostate cancer, European Journal of Cancer Prevention, Gallus, Silvano; Talamini, Renato; Bosetti, Cristina; Negri, Eva; Montella, Maurizio; Franceschi, Silvia; Giacosa, Attilio; La Vecchia, Carlo; 2006 ↩
- Supra-Additive Effects of Combining Fat and Carbohydrate on Food Reward, Cell Metabolism, Alexandra G. DiFeliceantonio, Ge´raldine Coppin, Lionel Rigoux, Sharmili Edwin Thanarajah, Alain Dagher, Marc Tittgemeyer, Dana M. Small, 2018 ↩
- Which Foods May Be Addictive? The Roles of Processing, Fat Content, and Glycemic Load, Plos One, Erica M. Schulte, Nicole M. Avena, Ashley N. Gearhardt, 2015 ↩