日本とイタリアにおける、ピッツァを食べる時の5つの違い

Column by Antonio Fucito — 4年 前

 「ピッツァ」は、翻訳を要しない稀有な言葉である。この世界共通語を思い浮かべただけで、反射的に唾が湧く。これを載せたテーブルを囲んで一緒にひと時を過ごす時、人々は一つになる。
 日本におけるピッツァの浸透は、比較的最近のことである。しかし、今や東京や大阪以外でも、ナポリタイプからイタリアンタイプ、試行錯誤の末にたどり着いたその土地土地のオリジナルタイプと、クオリティの高い様々なピッツェリアがひしめいている。
 歴史的な違いを差し引いても、ピッツァを前にした時、美しき国イタリアと、日出づる国日本では、消費者の行動に、いくつかの違いが見受けられる。それを、以下5カテゴリーにまとめてみた。

1) 手で食べる(あるいは、食べない?)

イタリアにおけるピッツァは、皆の手に届く、庶民的な、まずは目で楽しむ一品という認  識が、昔から変わることなく貫かれている。その生地、香り、トッピングをよりダイレクトに堪能するには、やはり手づかみが一番。手が汚れたり、決してエレガントとは言えないマナーを披露していることは重々承知しているが、そのマイナス分を考慮してもなお、手に軍配が上がっているのである。もちろん、特にトッピングが複雑な場合などは、フォークとナイフを使ったところで、全く問題はない。
 一方日本では、イタリアナイズが着実に進んでいるものの、ピッツァを味わう際の作法としては、フォーク&ナイフが未だに優勢である。筆者の日本滞在中、「イタリアでは、富裕層や貴族階級も手で食べるんですか?」という質問を受けた。はい、その通り。この作法に、社会階級的分断は存在しない。むしろ、この「原始的な」食べ方という天性の才能をデートの際に発揮することで、意中の相手を射止めるという技もあるのである。

2) シェアはあくまで選択肢。義務ではない

Sharing is caring(分け合うことは思いやり) -この言葉には賛成である。しかし、ピッツァには当てはまらない。イタリアでは一人1枚が基本で、シェアするとしても隣と一切れ交換するのがせいぜいである。なぜなら、たった一切れを口にしたところで物足りなさが残るだけであり、また次のカテゴリーで言及するように、ピッツァは「メインディッシュ」だからである。イタリアでは「シェア用に1枚プラスして注文」はあり、という程度だが、日本ではシェアが常識となっている。4人で食事に行った場合、日本ではできるだけたくさん食べ比べをしようと、メニューから4種(またはそれ以上)のピッツァをオーダーする。一方イタリアでは、マルゲリータに始まり、冒険はそれ以降というシャープな不文律が遵守されている。

3) ピッツァはメイン。異論の余地なし

イタリアにおけるピッツァは、食事の主役を張る、れっきとしたワンプレート完結型メインディッシュである。そのため、もしもこれにメニューがプラスされる場合は、せいぜいアンティパスト一品またはエスプレッソ、頑張ってデザート、というレベルである。一方日本では、ピッツァはより体系的な、イタリア的美食の構造 -アンティパスト数種、プリモ・ピアット(スープ、パスタ、リゾットなど)、肉や魚のセコンド・ピアット、デザート他- の流れに組み込まれている。そのため、ピッツァはコースメニューの一部を担うワンプレートメニューとして、あくまで他のメニューと対等のポジションで、全員が楽しめることを前提に切り分けられ、テーブルの中央に置かれる。

4) (少なくとも、これが根付いた地域では)安くて皆の手に届く

マルゲリータをピッツェリアで食べようと思ったら、イタリアでは4ユーロ(500円)から8~10ユーロ(1200円)で、これを実現できる。日本では、生地が小ぶり(180~200g)でもない限り、イタリアでの最高値以下では難しい。日本での平均価格は12~15ユーロ(1500~1800円)であり、これより高い場合もままある。 
この値段の格差の理由としては、ピッツァの持つ歴史的背景の違いと、主な材料がイタリアでは近場で揃う一方、日本では多くの場合これを輸入に頼っていることが挙げられる。また、日本におけるピッツァは、「グルメ」カテゴリーという高いランクに位置付けられていることも、ポイントである。外国料理全般に似たような傾向が見られるが、このような認識されたポジションの違いに派生する、主原料以外の様々なコストも響いている。

5) タバスコに引導を渡そう

イタリアに先駆けて日本に上陸したアメリカンタイプのピッツァは、ピッツァにタバスコをかけるという習慣ももたらした。そのすりこみが尾を引き、未だに引き起こしている惨事には、目を覆いたくなるものがある。様々な味わいの調和をとりつつお互いを引き立たせるという、ピッツァイオーロが細心の注意を払って組み立てた一切の仕事が、その一振りで一瞬にして崩壊する。タバスコの強力な官能的特徴は、全ての素材を覆い、殺してしまう。ピッツァを高める可能性に満ちたパートナーは、素材の味を際立たせる(イタリア産に限らない)EVOオイルである。豊潤なバラエティの中から、完璧なマリアージュの誕生が大いに期待されている。

上記以外の「ピッツァを食べる時のイタリアと日本の違い」をご存知の方は、是非ご一報を!

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