チロ・サルヴォ:ナポリが探し求めていたブランド、チンクアンタ・カロ50 kalò

Column by Nunzia Clemente — 4年 前

「ナポリのベスト・ピッツァは、チロ・サルヴォのもとに在り」 -あのニューヨーク・タイムスがこう宣言した、その年のこと。ロンドンの由緒正しいトラファルガー・スクエア上陸に向け、ピッツァや窯に関する膨大な数のプロジェクトが、ナポリはサンナッザーロ広場において、次々に芽吹き始めた。
 チロ・サルヴォは、ナポリと隣接する町サンジョルジョ・ア・クレマーノのかの有名なピッツァ職人ファミリー、サルヴォ家の後継者3兄弟 -フランチェスコ、サルヴァトーレと彼―   の1人である。

 ここでは、口数が少ないチロその人ではなく、彼のプロジェクト -これも彼のこの人柄と重なる部分が多いー に注目したい。
 彼の人生は常に、いかなる状況にあっても、ピッツァに捧げられてきた。そのような星の下に生まれたことは事実だが、彼はあくまでその運命をつかさどる指揮者としての地位にこだわり、これを貫き通した。それは、自らの道を切り開き、「彼の」ピッツアを創ることを意味した。
 個性の強い3兄弟が意見をすり合わせるのは不可能であると感じたチロは、母体を離れ、ソレント海岸にほど近い海辺の町トッレ・アンヌンツィア―タに位置した店マッセMasséに降り立った。
 当時、ナポリ圏から遠ざかることは、ほぼ流刑を意味した。いかに洗練されたロケーションであっても、楽しいことに敏感で贅沢好きなパーティーピープルとは無縁の世界。わずか数十キロの距離が島流しに匹敵する、この逆境にありながら、既にピッツァ職人として確かな腕を確立していたチロ・サルヴォは、間もなく注目を集める存在となったのである。

Ciro Salvo (50 Kalò, 50 Panino)

彼へ注がれる視線が十分に熱くなった時、満を持して彼はナポリ、それも海岸通りを締めくくる優雅なサンナッザーロ広場という飛び切りのロケーションにデビューした。
 2014年、チンクアンタ・カロが始動した。夢を数値化するナポリの夢占いでは、「チンクアンタ(50の意)」とはパンのこと。「カロkalò」は、古代ギリシャ語で「良い」を意味するカロスkalosから拝借したもので、この二つを合わせた「チンクアンタ・カロ」は、ナポリのピッツァ職人間の隠語でずばり「良い生地(ドゥ)」を指す。そのオープンと同時に、ここは感度が高いパーティーピープルのランウェイ、ピッツァ界のラスベガス的存在となり、そのあり方が完全に定着して今日に至っている。ピッツァを口にする有名人を、ここでは週替わりで見かける。そう、今やスターとは、ピッツェリアにも降り立つ存在となったのである。

 この唯一無二のロケーションから、カンパ―ニア州の食に関するゆるぎない知識に裏付けされたピッツァが誕生する。エンダイブがトッピングされたマリナーラ・チンクアンタ・カロは、この店のアイコン的存在である。スローフードに登録された食材を用いた「同盟ピッツァ」、そして「ピッツァ・エ・パターテ(ピッツァとジャガイモ)」 -前提として、パスタ・エ・パターテ(パスタとジャガイモ)という、おふくろの味的料理が存在する。炒めたセロリ、ニンジン、豚の皮、パルミッジャーノ・レッジャーノの皮等とジャガイモを合わせ、クリーム状にしたもので、これに刻んだプロヴォラチーズを加えてパスタと和えた一品である。これは、そのソースをパスタと合わせず、ピッツァのトッピングとしたものー 。これらの背後には、ナポリで最も充実したワインセラーが控えている。

 チロ・サルヴォは、冒険ではなく、数多の方法論と具体性の男である。彼とビジネスパートナーのアレッサンドロ・グリエルミーニは、ナポリのチンクアンタ・カロに続いて先述のトラファルガー・スクエアの同店、研究を重ねてたどり着いた特製バンズと、南イタリア選り抜きの星付きレストランとのコラボレーションによるレシピが織りなすグルメハンバーガーの「チンクアンタ・パニーノ50 panino」、そしてナポリ滞在を心ゆくまで堪能できる珠玉のB&B「チンクアンタ・スイート50 suite」を実現し、「50」ブランド力を着々と高めている。

La Marinara con Scarole di 50 Kalò

チロ・サルヴォ:ナポリにおけるナポリピッツァ進化段階最前線の権化

この5年間で、ナポリ圏外に駒を進める前に、同圏内でナポリピッツァの進化にチロ・サルヴォ以上に貢献したピッツァ職人を、1人でも挙げることができるだろうか。
 彼だけがアクセスできる、その日その日の仕込み量と方法を決定するための部屋を設置するほどの生地マニアである彼は、ナポリピッツァのより純粋な「伝統」からの突破口を、ナポリピッツァとしての限界まで生地の加水率を高めることの中に、いち早く見出したピッツァ職人の1人である。彼のピッツァは、彼の嗅覚と不断の努力の賜物である。気前の良い伝統的Lサイズ、ゴムボートと称される巨大な縁(コルニチョーネ)は見る影もなく、トッピングはぎっしり。おしゃれで居心地の良いチンクアンタ・カロであるからこそ、そこで提供されるにふさわしい1枚を追求しなければならないことを、彼は熟知している。この店のマルゲリータと、個人的には業界でも白眉と確信している、年々磨きがかかる揚げピザ(ピッツァ・フリッタ)に、彼の人となりとピッツァへの献身が如実に現れていよう。

 2010年から今日まで、世界中に輸出され、各々の地で活躍する姿が最も期待されているピッツァ職人は、彼チロ・サルヴォである。そして同様のナポリブランドは、チンクアンタ・カロに他ならない。

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